誘惑~初めての男は彼氏の父~
 「佑・・・典」


 抱きしめる腕が強すぎて、苦しくて声が途切れてしまった。


 「理恵。好きだよ」


 声質は違うけれど、やはり同じ血が流れているせいか・・・どこか聞きなれたような声色で同じ台詞を口にする。


 「ありがとう。でも」


 私が床に落としたビール缶は、そのまま壁際まで転がっていった。


 そろそろ夕方のバーベキューに向けて、火をおこさなくては。


 でも・・・。


 「佑典、準備を始め・・・」


 振り向いてそう提案した瞬間、成り行きで唇が重なった。


 夏の終わりの午後から夕方へとうつろいゆく時間帯。


 西日がログハウスの窓から差し込んで来ていた。


 「待って」


 壁にもたれながらキスを繰り返していたら、歯止めが利かなくなって。


 このまま全てを求められそうになり、床に身体を横たえた時に佑典を止めた。


 「今から準備しないと、暗くなってくるわ。まず炭の準備を」


 「後でいいよ」


 佑典はそっと私に触れた。


 「今は理恵と、こうしていたい」
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