誘惑~初めての男は彼氏の父~
 「力を抜いて」


 お風呂上りに軽く身にまとっていたTシャツが、捲り上げられた。


 これは先日、コンクールで関東に行っていた佑典が、お土産に買ってきてくれたもの。


 早速この旅行の折にと、身につけていた。


 「・・・怖い?」


 胸に触れた佑典の手が、私の鼓動の高まりを感じ取った。


 「あ・・・。ちょっと緊張しているだけ」


 和仁さんとは何度も身体を重ねたけれど、それ以外の男の人とはこういうことは一度もしたことがない。


 他の男の人を知らないがゆえの緊張はあるけれど、全ての手順において私は手馴れている。


 ・・・ただ佑典は、私を処女だと信じ切っている。


 和仁さんの名前を出さないまでも、初めては他人からすれば援助交際まがいだったこともあり、過去の経験を口にすればややこしいことになる。


 だから私は初めての時のように、何も知らないように振る舞った。


 「緊張しているのは、俺も同じだよ」


 佑典はそっと微笑み、私の手を自らの胸に触れさせた。


 鼓動が伝わってくる。
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