誘惑~初めての男は彼氏の父~
 「この場所にも絶対、理恵と訪れてみたかったんだ」


 横で佑典が、優しく私を見つめる。


 そっと寄り添い、唇を重ねたい気分。


 しかしながら他の観光客も多く、さすがに恥ずかしいのでここでは我慢。


 周辺の人たちはデジカメやら携帯電話のカメラなどで、目の前の神秘的な風景を思い思いに撮影している。


 しかし佑典は父親への反発新ゆえか、カメラと言うものに一向に関心を向けない。


 何かを撮影する姿を、付き合い始めてから一度も見たことがない。


 「理恵は写真とか撮らなくていい?」


 一応、気を遣って言ってくれた。


 私はたまに、写真は撮ったりするけれど、今は携帯電話は電源を切られてバッグの中・・・。


 「大丈夫。撮影しなくても、記憶に焼き付けておくから」


 「そっか」


 私が携帯電話の電源を切っている新の理由に気付くこともなく、佑典はまたしても私に優しく微笑む。


 こうして優しく接してもらうと、やはり私は佑典を好きなんだと思い知らされる。


 裏切りの影を常に抱えながら。
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