誘惑~初めての男は彼氏の父~
 「ずっと? 何?」


 私は佑典の次の言葉を待っていた。


 「・・・寂しがり屋だね」


 「私が?」


 意外な言葉に驚かされた。


 そんなふうに言われたのは、初めてだったから。


 幼い頃に父親を亡くしたものの、安易に浴びせられる「寂しいでしょ」などという同情(大部分が口だけ)が嫌で。


 いつも「元気な自分」を演じ続けてきたような気がする。


 勉強とバイトを目一杯入れたスケジュール。


 奨学金をもらう資格をキープし続けるために、勉強を頑張らなくてはならなかったのと。


 これ以上母親の負担を増やしたくなかったので、自分が使うお金は自分でバイトをして稼いでおきたかったのもある。


 スケジュールが詰まっていると忙しく、ゆっくり考えごとをする余裕もなくなる。


 ・・・寂しいと感じる暇もないくらいに。


 「俺もさ、中学生になったばっかりで母親亡くしてるから、解るんだよね」


 佑典はそう告げて、私をそっと抱き寄せた。
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