誘惑~初めての男は彼氏の父~
 「・・・そろそろ帰らないと、ご両親が心配なさるね」


 抱かれながらまどろんでいるうちに、時計は十時近くに達していた。


 「大切な娘さんにこんなことをして・・・。お父さんに刺されそうだね」


 背中を指でなぞられる。


 「・・・その心配はありません。私、お父さんいないんです」


 「あ、まずいこと言っちゃったかな」


 背中をなぞる指の動きが止まった。


 「いいんです。もうずっと昔のことですから」


 「ご両親、お別れになったの?」


 「いえ、私のお父さん、死んじゃったんです」


 「えっ」


 さすがに和仁さんは驚いた。


 「父は牧場を経営していたのですが、私が小学校二年生の時に、牧場作業中の事故で・・・。即死でした」


 「それは・・・。幼い頃に、つらい体験をしたんだね」


 「逆に小さかったから、死に対する実感が湧かなかったんですよ。急に父が消えたことに対して、寂しさを覚えましたが」
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