誘惑~初めての男は彼氏の父~
 「綺麗ですね・・・」


 社交辞令などではなく、これは本音だった。


 さほど標高の高くない、小高い丘の中腹で、都心までそんなに離れていない。


 そのためかなり間近に、宝石箱のようにばらまかれた夜景を堪能することができた。


 「以前道に迷って、偶然発見したんだ。これは掘り出し物だと思って」


 夜景を見に行くと聞かされて、最初は観光地のような場所に連れて行かれるのかと思った。


 カップルの名所のような場所・・・。


 だけど予想とは異なり、ここは他に訪れる人もいない、秘密のスポット。


 木々に覆われ、車一台くらいしか入られない狭いスペースから、きらめく夜景を見渡せる。


 「理恵を連れてきたいと考えていた」


 他に訪れる人がいない・・・それはキケンな予感。


 話しかけられても、怖くて和仁さんの目が見られない。


 妙な雰囲気を回避するために、私は絶え間なく会話を続けた。


 帰省中の話題を中心に、あれこれと。


 地方ならではの苦労話など。
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