誘惑~初めての男は彼氏の父~
 「何をしているのかな」


 パワーウィンドウのスイッチをカタカタいじっていた私の手首を、和仁さんは掴まえた。


 「わ、私、そろそろ帰らなくちゃ」


 突然私は帰ると言い出した。


 「・・・車を降りて、ここから歩いて帰るとでも? 歩ける距離じゃないし、何より危ないよ。ナンパ目的の男に、たちまち声かけられる」


 確かにこの周辺の夜景スポットは、カップルが多数集まる。


 同時にナンパ目的の男女もまた集まってきていて、それぞれの「相手」を物色する。


 とはいえ、ここにいるのも危険だというのは分かっている。


 「ナンパ男の車に乗って、そのまま一直線に・・・かな。それこそ佑典に顔向けができないのでは」


 「・・・」


 「さ、馬鹿なことはやめて」


 私がパワーウィンドウのスイッチをいじるのをやめたことを確認し、和仁さんは再び私に身体を寄せてきた。


 「少しの間でも離れているのが、こんなに切ないものだなんて。知らずに生きていたよ」


 軽く唇を触れ、言葉を続けた。
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