誘惑~初めての男は彼氏の父~
 「誰も来ないよ。覗きに来るとしたらキツネと・・・。最近なら熊も出るらしいけど」


 「ふざけないでください・・・」


 「ふざけていられる余裕なんてないよ。理恵が好きすぎて」


 「困ります。そんなこと」


 今宵も言葉とは裏腹に。


 私は与えられる全てを受け入れている。


 口づけが繰り返されているうちに、身体はますます火照っていく。


 「・・・?」


 それが一瞬途絶え、身体が少しでも離れると不安になり、和仁さんを見つめてしまう。


 エアコンの風が強すぎたので停止して、窓を開けて自然の風を入れるついでに、ジャケットを脱いでいたようだ。


 「そんなに切なそうな瞳で見つめられてしまうと、襲いたくなるよ」


 ジャケットを運転席に置いて、再び距離を詰めてきた。


 夏の夜。


 彼氏とは別の人と、私はまたいけないことをしようとしている。


 欲しいと思う気持ちに、もう歯止めが利かなくて。


 「あいつにもこんな表情見せるの・・・」


 不意に耳元で、こんな問いかけが囁かれた。
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