誘惑~初めての男は彼氏の父~
 「・・・理恵、何そんなに驚いているの?」


 佑典の腕の中でびくっと飛び上がった私に対し、さすがに不審に感じたようだ。


 「え、その・・・。何て言うか。・・・佑典はお父さんが再婚しても平気なの?」


 「どういうこと?」


 「例えば私は・・・。父親の顔を写真でしか知らないんだけど。それでも母親が再婚するなんてなったら、やっぱり嫌なのが本音だし」


 「俺も以前はそうだったよ。もしも女でも連れてきたら、母との思い出を汚されそうな気がして、絶対許さなかったと思う」


 「ならばなぜ・・・」


 「俺が間もなく独立したら、あの人一人ぼっちになるよね。もう七回忌も過ぎたし、もしもいい恋愛してるなら、それもありかなって」


 いい恋愛、か。


 「俺ばっかり理恵とこんなことしていて、あの人に出家者みたいな生き方を強いるのは、かわいそうだしね。あの人だって俺の父親としてばかりじゃなく、まだ男として生きたいと思うし」


 父親の裏の顔を知らない佑典は、どこか達観した口調で語る。
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