誘惑~初めての男は彼氏の父~
 ・・・。


 「折を見て、連絡するよ」


 「・・・待ってます」


 次の日曜日。


 駅のホームの片隅の、自動販売機の脇に立ち、和仁さんが乗る特急列車を待っていた。


 ついに和仁さんが、札幌に戻ってしまう。


 もう会えない・・・。


 今日を限りに、会わないつもりだった。


 「好きだよ、リエ」


 別れ際、自動販売機の陰で軽いキス。


 一たびこうして触れられてしまうと、もっともっと欲しくなる。


 ・・・それでは繰り返すだけ。


 「じゃ、また近いうちに」


 「お元気で・・・」


 特急に乗り込む和仁さんを見送った。


 動き出して通り過ぎる際に、窓辺にちらっと和仁さんの顔が見えた。


 「・・・」


 列車が視界から消えたのを確認して、私は歩き出した。


 まず和仁さんからもらった名刺を、駅のゴミ箱に捨て去った。


 もう二度と迷うことのないように。
< 22 / 433 >

この作品をシェア

pagetop