誘惑~初めての男は彼氏の父~
 「教えて。彼氏にもこんなふうに応えているのか」


 「答えたくありません」


 「だめだよ。もう逃がさない」


 強い力で引き寄せられ、唇を奪われる。


 「和仁さん・・・」


 呼吸の合間に、かろうじて名前を呼んだ。


 「この滑らかな肌を、思い切り傷つけてしまいたい衝動に駆られるほど・・・欲しい」


 ベッドの上で絡み合い、見つめ合う。


 ときめく瞬間のはずなのに、どことなく恐怖を覚える。


 ますます深みにはまっていく自分が、一番怖い。


 「このまま強く抱いて・・・あいつから奪ってもいいと思ってる」


 本気でそんなこと言ってるの・・・?


 訊くこともできぬままに、体を開かされた。


 ビールの酔いが程よく回ってきて、世界が渦を描き続ける。


 罪悪感も何もかもどうでもよくなって、ただこの人を感じていたいと願うことしかできなかった。


 琥珀色の闇に深く堕ちていくように、強引な抱擁に身を委ねていた。
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