誘惑~初めての男は彼氏の父~

ニアミス

 「父さーん。いないの? 返事してよ」


 チェーンで遮られてそれ以上は開かないドアの隙間から、佑典が叫んでいる。


 絶え間なくピンポンを鳴らしながら。


 「和仁さん・・・」


 私は横で眠る和仁さんを叩き起こした。


 「夢だったのか・・・。夢の中でも理恵を抱いていたよ」


 名残惜しそうに私の肌を求めるけど、今はそれどころではない。


 「大変です。佑典が帰宅しました」


 「え・・・」


 寝起きで混乱していた頭がようやく正常になってきたようで、和仁さんは少し考えて起き上がった。


 「・・・おかしいなあ。ガレージに車はあるのに」


 佑典の独り言も響いてくる。


 「理恵はここにいなさい。僕が出たら部屋の鍵を閉めて。そうすれば佑典は絶対に中に入って来られない」


 「分かりました」


 「佑典の隙を見て、外に出よう。送るから。・・・あ、靴はどこに置いた?」


 「居間から入る際、そのまま石の台の上に置きっぱなしです」


 「隙を見て隠しておくから」


 タオル一枚身にまとい、和仁さんは出ていった。


 言われた通り部屋の鍵をかけ、それから服を着て、静かにドアの向こうの成り行きを見守った。
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