誘惑~初めての男は彼氏の父~
 「そうそう、父さん」


 佑典がバスルームに向かったので安心していた和仁さんだったけど、佑典は引き換えしてきたので少し慌てた。


 「さっき台所にいた虫って、どんな虫? どんなに探しても、いなかったんだけど」


 「えーと・・・。そう、ゴキブリみたいな」


 佑典を庭に出さないために編み出した架空の虫なので、説明に窮した。


 「ゴキブリ? この辺りにはいないんじゃないの? 北海道ならススキノ界隈の飲食店くらいにしか」


 「そうか・・・。見間違えたかも」


 「次は老眼なんてやめてくれよ」


 「違う。乱視だ」


 撮影に支障が出るので、和仁さんは視力に非常に気を遣っている。


 未だに両目とも1.5近くあるらしい。


 ・・・ようやく佑典はバスルームへと向かった。


 しばらくしてシャワーの水音が聞こえ始めたタイミングを見計らって、和仁さんは部屋のドアをノックした。


 「理恵」


 恐る恐るドアを開いた。


 何とか佑典にバレることなく再会できて・・・安堵。


 「靴はここにある。佑典がシャワーを終える前に家を出よう」
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