誘惑~初めての男は彼氏の父~
 絶体絶命そのものだった。


 逃げ出そうと動いたら墓穴を掘るし、このままここにいて見つかるのを待つだけ。


 まさに八方ふさがり。


 私は自分がしでかしたことの愚かさを悔やんだ。


 調子に乗りすぎていたと痛感した。


 ・・・それらはほんの一瞬のこと。


 まさに佑典が、私のすぐそばにまで転がってきた電球を取ろうと近寄ってきたその時。


 PPPPPPPPP・・・!


 突然電話が鳴り出した。


 電話は廊下にある。


 和仁さんが立っている場所よりも、佑典のほうが電話に若干近かったのと。


 日頃の習慣ゆえ、佑典が電話へと急いだ。


 「もしもし?」


 廊下から佑典の声がする。


 その隙に和仁さんは、急いで電球を回収。


 私が逃げる余裕まではないとの判断ゆえ、そこに隠れ続けた。


 「どこからの電話だった? あ、これ電球。拾っておいた」


 「ありがと。ファックスだった。神奈川のおじさんから」


 和仁さんは横浜出身なので、そちらに親戚が多い。


 メールを使いこなせない高齢の親戚が、時折こうしてファックスを手紙の代わりに送りつけてくるとのことだった。
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