誘惑~初めての男は彼氏の父~
 「入団後も頑張ってください。佑典のことよろしくお願いします」


 「はい・・・」


 非常に冷淡な反応だった。


 冷たい眼差しで、値踏みするように私を見る。


 本当はパーカーにジーンズなどの軽装が好きな私だけど、佑典に伴われてオーケストラ部の面々の前に立つ時は、かなり服装に気を遣う。


 首席奏者の彼女として、相応しい立ち振舞いが要求されるから。


 この日も春の花がいっぱいに散りばめられた、チュニックスタイルのワンピースに、淡いカーディガンを羽織っていた。


 かなり頑張っておしゃれをしたつもりなのだけど、内山さんの華やかな服装と比較すると、若干見劣りするのが否めない。


 ブランド物なのだろうか、高級そうな。


 F女子大はお金持ちのお嬢様が多いって印象だし、子供の頃からフルートを習っていたなんて、やはり裕福な家庭の出身なのだろう。


 ちょっと羨ましく感じた。


 と同時に直感した。


 この子は私に敵意を抱いている。


 そして佑典に想いを寄せている。
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