誘惑~初めての男は彼氏の父~
 ・・・全部凍らせたまま眠りたい。


 カーステレオから流れてくるそんなフレーズに包まれながら、私たちは赤信号で車が停まった隙にキスをした。


 もう少し車を走らせて、二人だけの誰にも邪魔されない空間にたどり着くまで待ちきれなくて。


 ・・・和仁さんと再会したのは、去年の夏。


 再会して初めての春を迎えている。


 桜が咲き始めたけどまだ肌寒い春の夜。


 紫色に染まる空の下、今はただ温もりを求めていたかった。


 ・・・。


 「やっと二人きりになれたね」


 ホテルのドアを閉めた瞬間、ようやく二人きりになれたことを実感できる。


 私はただ、和仁さんに腕を伸ばし・・・抱きしめられる。


 「もう飽きたって思えるまで、こうしていようか」


 久しぶりに朝まで過ごせる夜。


 そして次はいつ会えるか分からない夜。


 時が過ぎるのが怖くて、ただひたすらに和仁さんにすがりついた。


 「できるなら、あいつから奪いたい」


 「・・・」


 抱かれるたびに、数え切れないくらい繰り返されるその台詞。


 どうすることもできないまま、今宵も身を委ねているだけだった。
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