誘惑~初めての男は彼氏の父~
 「私が・・・? いったいどこへ」


 佑典のさりげない一言が気になる。


 もしかして私と和仁さんの関係をどことなく予感していて、不安に駆られているのか・・・などと考えたりして。


 「どことなく。理恵が手を離したら遠くに逃げていってしまいそうだって予感が、付き合い始めた頃からずっと付きまとっているんだ」


 ・・・佑典に初めて出会った頃。


 私はすでに地元で、通りすがりの年上の男の人と初体験を済ませていて。


 その人のことを忘れたくて、新しい自分になりたくて・・・大学の先輩だった佑典からの告白を受け入れる決意をしたのだった。


 ところがありえないことに、初体験の相手の和仁さんが佑典のお父さんだったと知って。


 再会の後、引きずられるままに和仁さんとの関係は復活し、離れられないまま今日に至る。


 私が違う人に心も体も許しているのを、夢にも思っていないはずなのに。


 佑典は形のない不安に駆られて、私との未来を確かなものにしようと約束をせがむ。


 私はこの身を縛ろうとする鎖を、少しでも緩めたままにしておこうと逃れる。


 「理恵、ずっと一緒に生きていこう」


 夜も更ける街路樹の下で、佑典は私を抱きしめながら唇を重ねた。


 脇の街路灯は電球が切れかかっていて、光がちらついていた。
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