誘惑~初めての男は彼氏の父~
 「あ、和仁さん・・・」


 あれこれ考えごとをしていたのだけど。


 舐めるように肌を触れられ、体が再び熱を帯びる。


 もっと感じたくて・・・。


 「余計なことは考えないで、二人きりの時は溶け合うことだけに夢中になろう」



 「はい」


 腕の中で返事をすると、それを確認したかのように甘いキス。


 唇を重ね求め続けると、本当に身も心も全て溶け出してしまいそうになる。


 何も考えられなくなるくらいに、このまま溺れていたい・・・。


 「理恵、もっと強く」


 背中に回した腕の力を強め、もっと強く抱き返すように求められた。


 ホテルの部屋は灯りが落とされ薄暗く、部屋を包む夏の夜の淡い光は、まるで深海の底を思い起こさせた。


 求め合い体を重ねていると、遠い波音が響いてくるようで。


 「だめ・・・」


 「今さら何を言ってるの」


 私がこれ以上姿態をさらけ出すのを拒んだと思った和仁さんは、私の上から囁きかけた。


 「男を引き入れておいて逃げ出すなんて・・・卑怯だよ」


 この人は、どうすれば私が感じるか・・・何もかも知り尽くしている。


 もう逃さないと告げるがごとく、指でもてあそぶ。


 「違います・・・。私、もう・・・、和仁さんじゃなきゃだめ・・・」


 快感に震えながら、ようやく言葉を吐き終えた。


 「最初から分かっていたはずなのに」


 私が快楽の渦に囚われて、身動きも取れないのをあざ笑うかのように。


 和仁さんはそっと微笑みながら、私を一番奥まで求めた。
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