誘惑~初めての男は彼氏の父~
 ・・・。


 「そうか、半券で・・・」


 「びっくりしたんですから。見られたんじゃないかって」


 その夜、佑典が帰宅してお風呂に入っている隙を見て、和仁さんが電話をかけてきた。


 事前にメールをして、和仁さんがうっかり落とした半券が原因で、佑典に変に思われたことは報告済み。


 和仁さんはメールじゃじれったいとのことで、直接電話をしてきてくれた。


 「ごめんごめん。ついうっかりして」


 二人の逢瀬の証拠になるようなものは、常に残さないように気を配っていた。


 ところが今回は、たかが半券とちょっと油断したのかもしれない。


 「私がブログに載せたのも悪かったんですが・・・」


 和仁さんと出かけた場所に関しては、たとえ一緒に行った人の存在について言及していなくても、掲載を今後は警戒しようと心に誓った。


 出先で撮影したものは、日数を空けてからの掲載にするとか。


 「僕もこれからは、証拠は全て家に帰る前に抹殺させるよ。・・・理恵と愛し合った記憶をこの世に残せないのは寂しいけど」


 「和仁さん・・・」


 「今度の休みは、小樽に行こうか。本当なら函館まで行きたいんだけどね」


 海辺で生まれた和仁さんは、故郷をほうふつとさせる港町へ出かけることを好む。


 「海風に吹かれながら、今後の事を話し合おう。・・・今日のお詫びに、好きな所どこにでもキスしてあげる」


 「はい・・・。楽しみにしています」


 そろそろ佑典がお風呂から出てきそうな気配だったので、その前に電話を切った。
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