誘惑~初めての男は彼氏の父~
 「・・・その噂、佑典の耳には届いているの?」


 恐る恐る尋ねてみたところ、


 「はい。忠告した人がいるみたいです」


 ショックだった。


 事実無根とはいえ、そんな噂が佑典の耳にまで届いていたと考えるだけで恥ずかしい。


 昨日今日のことではないらしい。


 佑典は私のそんな噂を耳にしながら、その後も普通に接していたの?


 ・・・抱いていたの?


 「でも中田さん、そんな噂全く相手にしていなかったらしいです」


 「え・・・」


 「忠告した人に対して、理恵さんへの絶対的な信頼を説いたそうです」


 「・・・」


 噂にも全く動揺せず、揺るがずにいてくれたことは嬉しい。


 だけど心から、そう信じてくれているのだろうか。


 対面上そう答えているだけで、内心私のことを疑っていたりはしないだろうか。


 援助交際。


 それは事実ではないとはいえ、裏切っていることには変わりないのだから。


 離れられない人が、心には二人いる。
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