誘惑~初めての男は彼氏の父~
 「ごめんごめん、待たせちゃって。悪かったね」


 佑典が部室から出てきた。


 「・・・怒ってる?」


 「ううん全然」


 私が微妙な表情をしているのを目にした佑典は、私が待たされて怒っているのだと誤解したようだ。


 「ごめんね。つい運営のことで熱く後輩たちと語っちゃって」


 佑典は詫びながら、一緒に歩き出した。


 私は気になっていたので、折を見て尋ねてみようと思っていた。


 もちろん、とっても聞きにくい。


 私の噂、知ってる? なんて。


 それは援助交際、別の男の人との噂。


 しかもお相手は、佑典のお父さん。


 「ねえ佑典、ちょっと座らない?」


 駐車場へ向かう途中、大学の敷地内にある池のほとりを通りかかった時。


 そこのベンチに座ろうと持ちかけた。


 お昼時ならここまでお弁当を食べに来る学生は多いのだけど、今の時間は訪れる人も少ない。


 間もなく夕方になれば、犬の散歩コースに利用する近所の住人が多くなる。


 「どうした、理恵?」


 元気のない私を心配したのか、佑典は優しく問いかけくる。


 「佑典・・・」


 その優しさが心に痛くて、私は佑典に抱きついてしまった。


 「り、理恵?」


 「・・・」


 突然の私の振る舞いに、佑典は驚いている。


 でも私が何を言わんとしているか、内心察しはついているはず。
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