誘惑~初めての男は彼氏の父~
 「そうか。佑典は人がいいから」


 和仁さんはそっと私の肩に手を回した。


 「僕たちのこういう関係は・・・。見る人が見たら、援交って捉えられるんだろうね」


 そしてそのまま引き寄せられ、また唇を重ねた。


 「援交じゃないって言い切れますか」


 キスの合間に私は問いかけた。


 「第一僕は、お金で理恵の体を買っているわけじゃない」


 「私も・・・。お金なんか必要ありません」


 生活のためには、お金はなくてはならないものだとはいえ。


 この体を和仁さんに与え、好きにしてもらう代償としての対価は必要なかった。


 いけないことだとは判っていても抱かれ、一瞬だけでも何もかも忘れさせてくれるのなら、それだけでよかった。


 「これからどうしようか」


 和仁さんはキスを終えた後、そっとため息をつきながら尋ねてきた。


 「どうするかと言いますと?」


 「例えば、取り返しのつかないことになる前に・・・控えるとか」


 「それって・・・別れるってことですか」


 短絡的にそう考えた私は、和仁さんを見つめた。


 しかし和仁さんは、黙ってフロントガラスの向こうの海を眺めているだけだった。


 もちろん辺りは暗闇、海など見えはしない。


 ただ波音が響いてくるのみ。


 「い、嫌です」


 「理恵?」


 私は思わぬ言動に出た。


 「これっきりなんて言わないでください」


 そう告げたまま和仁さんに抱きついた。
< 322 / 433 >

この作品をシェア

pagetop