誘惑~初めての男は彼氏の父~
***


 「あ、もしもし。父さん?」


 佑典の声で目が覚めた。


 いつの間にか寝ていたようで、どこで何をしているのかとっさには思い出せない。


 背後から佑典の声がしたので、振り返ってみると・・・。


 ベッドに寝そべったまま、どこかに電話をかけている。


 「着信? ああ、さっきのね。ちょっと聞きたいことがあって。もう解決したから大丈夫」


 肌がシーツに触れた。


 ここは自室ではない、どこかのホテル。


 隣には佑典が・・・。


 あの後、寮は男子禁制なため自分部屋には入れられなくて。


 でも体を重ねることで、気持ちを確かめたいとのことで。


 どこかのホテルへ・・・。


 先ほどまで和仁さんに抱かれていたことを悟られないよう、痕跡を全て洗い流した後で、佑典に身を任せた。


 一日に複数の相手に抱かれたのは、初めての経験だと思う。


 さすがに疲れて・・・気が付いたら眠りに落ちていた。


 そして佑典は、ベッドに横たわったまま電話の最中。


 「ん? 飲み会で遅くなったから・・・泊まってく」


 和仁さんから電話がかかってきて、それに応対しているらしい。


 「友達の家じゃないよ。今、隣に理恵が寝てる。代わる?」


 父親に、彼女と夜を共にしていると伝えている。


 和仁さんに・・・!


 私は飛び起きて、佑典のほうを見つめた。


 だけど声を出せない。


 佑典と関係を持っていることは、和仁さんは承知の上とはいえ。


 それをあえて和仁さんに知らしめるのはつらすぎた。
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