誘惑~初めての男は彼氏の父~
 「はじめまして、寺本です。お邪魔しています」


 靴を脱いで振り返り、こちらを見た佑典のお父さんを見て、私は言葉を失った。


 (まさかそんな・・・!)


 信じがたい事態が発生した。


 (和仁さん・・・!)


 忘れるはずもない。


 三年前に行きずりの関係を結んだ人。


 私の初めての男・・・!


 「君が、佑典の・・・?」


 当然、向こうも気がついた。


 私が三年前、行きずりで身体の関係を持った女であることに。


 ・・・私は震えるのを必死でこらえていた。


 挙動不審なふるまいをすれば、佑典に変に思われる。


 どうしよう・・・。


 今ここで和仁さんが佑典に、過去のことをぶちまけでもしたら。


 お前の彼女は俺がかつて手をつけた女だ、交際は許さない・・・だなんてなったら。


 大変なことになる。


 私は何も喋ることができず、身動きも取れずにいた。


 ただただ、和仁さんの動向を見守っていた。
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