誘惑~初めての男は彼氏の父~
 「・・・一応、報告はするつもりだ」


 佑典は小声で答えた。


 「話はそれからにして。私はまだ何も答えられない」


 四年生でもうほとんど授業のない佑典はこれから帰宅するけど、私はまだ午後の四コマ目の授業が残っているので、教室に戻ろうとした。


 「待って」


 去り行く私の腕を、佑典は掴んだ。


 「勝手に海外行きを決めたのは、悪かった」


 人目も気にせず、背後からそっと抱きしめられた。


 「色々あったから・・・。海外で理恵と一からやり直してみたいって思ったんだ。だからこの採用話に乗ったんだ」


 一からやり直す?


 佑典のこの言葉の真意を掴みかねた。


 色々あった、の「色々」って・・・?


 もしかして私と和仁さんの関係を暗示しているのだろうか、と勘ぐった。


 和仁さんとの仲に終止符を打った上で、全てをリセットして海外でやり直そうと提案しているのだろうか、と。


 「・・・」


 何も答えられず、沈黙だけが流れた。


 「あ、四コマ目のチャイムが」


 授業がもう始まってしまうので、話は一旦打ち切って教室へと急いだ。


 「また連絡するから」


 佑典とは話はまた後日ということにして別れた。
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