誘惑~初めての男は彼氏の父~
 ここから走って逃げ出したい衝動。


 でも今さらジタバタするのは逆効果。


 「大人の対応」素知らぬふりをするのが得策と考えた。


 すると・・・。


 「君が・・・寺本さん? はじめまして。佑典の父です。いつも息子がお世話になってます」


 和仁さんのほうが先に、「大人の対応」に出てきた。


 「初めて出会った」息子の交際相手に対し、不自然さを全く感じさせない対応。


 「こ、こちらこそ佑典さんにはお、お世話になっています・・・」


 私も自然体を装ったものの、言葉が途切れ途切れになってしまった。


 動揺を隠せない。


 「理恵、そんなかしこまらなくてもいいって。ただのカメラおたくだと思えば」


 佑典は私がお父さんに挨拶することに対し、緊張しているのだと思い込んでいる。


 それだけじゃない。


 初めての相手に、まさかこんな形で再会するとは。


 夢にも思わぬ展開に、高鳴る胸の鼓動を抑えるのに必死だった。
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