誘惑~初めての男は彼氏の父~
***


 ガラス窓の下に広がる夜景。


 街の中心部を横切る大通公園のイルミネーションも始まり、街は冬の装い。


 「・・・またしてもあいつは、人騒がせなことをしてくれたね」


 耳元での囁き。


 「最初、僕を試してるのかと思ったよ」


 苦笑する和仁さん。


 「試す?」


 「そう。海外に理恵を連れて行く・・・なんて言い放って、僕が慌てて止めるのを楽しみにしてるんじゃないかって」


 もしも佑典の報告が狂言で。


 和仁さんの反応を試すための罠だったならば・・・?


 もしもまだ疑いが消えていないのなら、そんな仮説も成り立ったかもしれない。


 「焦って止めたりしたら、あいつの思う壺かもしれないから。動揺を抑えて向こうの出方を待ったよ」


 「私も・・・悪い冗談かと最初は思いました」


 「残念ながらあいつは本気だったね。親の僕でさえ知らない間に、勝手に海外赴任を決めていて」


 「相談もなかったようですね・・・」


 「でも採用の前に、勤務先の学校と契約書を交わすんだけど、その際に保証人のサインが複数必要だ」


 「保証人ですか」


 思えば私が大学に合格した時も。


 入学手続きの書類には、保証人のサインが必要だった。


 確か二人。


 一人は同居する家族ではNGだったため、親戚のおじさんにお願いした記憶がある。


 「第二の保証人は親戚などにこっそり頼んだとしても、そこから僕に間違いなく情報は伝わるから、いつまでも隠し立てはできなかっただろうけどね」
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