誘惑~初めての男は彼氏の父~
 ガラスの都会の夜景に魅入られながらも。


 身も心も和仁さんのぬくもりを欲している。


 「それにしてもあいつは、何を考えているんだか」


 ため息をつく様子を見せる。


 「親子でも理解できないものですか」


 「ああ理解できない。何が楽しくて、大切な理恵と何千マイルも隔てられる道を選ぶんだか」


 向きを変え、私の顎を指で触れて。


 唇を自分にちょうどよい角度にした後で、口づけを交わす。


 背後には180万都市の夜景。


 節電ムードでかつてほどの煌めきは見られないとはいえ、クリスマスシーズンに突入した街は輝きを増している。


 「和仁さん・・・」


 唇を重ねながら抱きしめられてしまうと、他のことがどうでもよくなってしまう。


 今夜は話を聞いてもらいたくて、会うことを望んだはずなのに。


 「・・・和仁さんが佑典を食い止めてくれて、嬉しかったです」


 このまま流されてしまうのを恐れ、キスをやめて体を離した。


 「嬉しかった?」


 「はい。私との話し合いは平行線で、そのまま」


 「・・・そのまま海外に拉致され、もうこんなふうに会えなくなったかもね」


 和仁さんが私の髪に触れる。


 それだけで電流のような刺激が、この身を貫く。
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