誘惑~初めての男は彼氏の父~
 「佑典はきっと、僕から理恵を引き離そうとしたんだ」


 私を腕の中に閉じ込めながら、和仁さんが口にした。


 「やはりまだ疑っているのでしょうか」


 「決定打はないからこれ以上追求はできないものの、ぼんやりとした不安として残っている可能性はある。今後の危険を取り除くためにも、二人でどこか遠い地へ旅立とうと考えたのかもしれない」


 「だからって外国じゃなくても。よりにもよって政情不安定なあんな・・・」


 私は窓辺を離れ、ベッドに腰かけうつむいた。


 「外国だったら、そう簡単には会えなくなるからね」


 和仁さんも私を追うように、隣に腰かけた。


 そして頭を撫でる。


 「正規の教員として採用され、楽器も続けられる。そして二人きりの世界・・・。佑典にとっては最良の条件が揃っていたんじゃないか」


 「でも」


 「僕は反対した。でも佑典の進路については本人の希望を尊重せざるを得なかった。でも理恵のことは別だ」


 「私・・・」


 「子を持つ親として、よその家のお嬢さんを大学を辞めさせてまで結婚して、外国に連れて行くだなんて到底認められない」


 「・・・」


 「ただ、これはあくまで建前」


 和仁さんは私の両肩を抱き、真正面から見据えた。


 「本音は・・・理恵を異国になど、やりたくなかったから」
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