誘惑~初めての男は彼氏の父~
 「それは、どうして私を」


 どうして私を、佑典と共に外国に行かせたくないと願ったか。


 建前は政情不安定な異国の地に、息子が他家の娘を伴うのを、親として認められないから。


 そして本音は・・・。


 「離したくないから。佑典だけのものになんか・・・したくないから」


 「和仁さん」


 それから、今晩何度目かの甘いキス。


 めまいがしそうなくらいに溺れている。


 「で・・・。これからどうする?」


 「これから、ですか?」


 キスの続きをどうするのかという問いかけかと思った。


 「このまま・・・してください」


 ベッドのもつれるように倒れ込み、目の前の和仁さんにそう答えたら笑われた。


 「違う。そうじゃなくて、今後の僕たちの話だよ」


 「あ・・・」


 とんだ勘違いが恥ずかしくなり、目を逸らした。


 「佑典と正式に婚約するって?」


 「はい・・・。断れるような状況じゃなくて・・・」


 抱かれる腕の中で答えた。


 「まずいことになったね。今ならたとえ僕が理恵を奪っても、モラル的に許されないだけで済むけど、婚約を交わしてしまえば話は別だ」


 「えっ」


 「婚約後にこんなことが発覚したら、婚約不履行で訴えられる危険性も生じる」


 「まさか佑典が・・・」


 自分の父親と彼女が関係してるだなんて知って、平気でいられる人なんていないのは明白。


 でも訴えるなんて・・・。


 「あいつの理恵への想いが純粋な分だけ、真実を知った時の怒りがどれほどになるか、想像がつかない面もある」
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