誘惑~初めての男は彼氏の父~
 「リセットって?」


 「・・・」


 勇気を振り絞って、伝えた言葉。


 しかし佑典ははっきり理解していない様子。


 「つまり、その・・・。お互い離れ離れになっている間、約束などで互いを縛ることなく、ゆっくり考えてみるのもいいんじゃないかなって」


 「ゆっくり考える?」


 「うん。・・・一旦婚約は白紙にしない?」


 「え・・・」


 ようやく私の意図を、理解した佑典。


 その後気まずい沈黙が流れる。


 「婚約をリセット、っていうことか」


 私は静かに頷いた。


 「この前はそれでいいって言ったのに?」


 「後になって考え直したの。これから新しい生活が始まって、どうなるか判らないのに、互いを縛り付けるのはよくないと」


 「俺が心変わりするとでも?」


 佑典はありえないといった表情を見せる。


 「そんなに俺が信じられない?」


 「今は大丈夫でも・・・忙しい日々に流され、状況は変化してしまう可能性も」


 「他に何か理由はあるの?」


 「え・・・」


 佑典が隙のない眼差しで私を見つめる。


 「誰か好きな人がいるとか?」


 私の動揺はピークに達する。
< 359 / 433 >

この作品をシェア

pagetop