誘惑~初めての男は彼氏の父~
 「私・・・」


 今こそ真実を打ち明けるべきか、迷った。


 このままではいられないのは事実。


 佑典の海外渡航を機に、私たちの関係に区切りを付けるのも選択肢の一つだった。


 すると、


 「やっぱり心配だよね・・・。今までずっと一緒だったのが、これからは何千キロも隔てられる。メールやネットで絶えず繋がることは可能とはいえ、物理的な距離は埋めようがない」


 ・・・親の世代だったら。


 遠距離恋愛は今よりもずっと困難だった。


 国内でも、海を隔ててしまえば。


 電話代も今よりずっと高額だったので、直接話すことも大変だったようだ。


 海外なんてさらに・・・。


 数週間かけて海を越えるエアメールで、愛を確かめ合っていたとか。


 今では考えられないほど、想いを持続させるには強い意志が必要とされた。


 「でも俺が理恵以外の女に心を移してしまう未来なんて、想像すらできないから」


 そう言い切った。


 私に対してさっき、好きな人がいるのかなどと尋ねてきたけれど、それ以上の追求はなかった。


 「理恵がこれからの俺たちがどうなるか、底知れぬ不安に包まれているのは理解できる。だからこそ・・・理恵は俺のものだって証がほしいんだ」
< 360 / 433 >

この作品をシェア

pagetop