誘惑~初めての男は彼氏の父~
 「証?」


 「うん。目に見えない約束じゃ心配だから、俺たちの将来を誓った指輪を送りたい」


 それは同時に、私の未来を束縛する鎖ともなる。


 「数年の任期の後には、希望すれば国内の系列学校に赴任できるんでしょ? 帰国してそれからでも」


 実際札幌近郊にも、系列高校は存在している。


 「そんなに待てない・・・」


 「だったらどうして、海外赴任なんて決めちゃったの? 最初から郊外の系列高校に採用されていたら、こんなことには・・・」


 「今年は俺の専門科目は、採用がゼロだったんだ。海外校なら募集枠があって、なおかつ吹奏楽部の顧問も募集していて」


 「・・・」


 「どこでもよかったんだ。理恵と二人で生きられる土地なら」


 私は再び言葉に詰まる。


 また同じ問答の繰り返しになる。


 二人の意見は平行線のまま。


 ・・・やがてようやく結論というか、妥協案が導き出された。


 正式な婚約、そして結婚に関する手続きは、私が大学を卒業してから。


 それまではお互いの、新しい生活を確立させることに専念。


 指輪は・・・受け取ることになった。


 これまで佑典と紡ぎ上げた日々を、そう簡単にはかき消すことはできなくて。


 「俺も長期休暇には帰省するから、理恵も会いに来てね。まずはパスポートを」


 私の薬指に、リングがはめられた。
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