誘惑～初めての男は彼氏の父～

卒業前

＊＊＊


　二月。


　オーケストラ部の卒業記念公演が、大学内のホールにて開催されていた。


　卒業を控えた佑典には、これが最後の公演となる。


　ファゴットの首席奏者である佑典が目立つよう、この日は演奏パートが多い楽曲が選択された。


　スポットライトを浴びながらファゴットを奏でる佑典の姿を次に目にするのは、いつになるか分からない。


　そしてもう一人、目を引くのは。


　フルートの内村明日香さん。


　来季からはフルートの首席奏者の座が濃厚で･･･。


　最後の佑典の舞台を、私は関係者席から静かに見守っていた。


　これで最後だと思うと、今まで何気なく見過ごしてきたシーンが全て惜しく感じられる。


　たとえ同じ楽曲を奏でていたとしても、その時の調子や気分次第で音色は大きく異なってしまう。


　毎回毎回、異なる音色が披露されていた。


　･･･。


　｢あなたも･･･、懲りない人ですね｣


　演奏会の後は、関係者一同が顔を揃えた打ち上げ。


　学生会館内一室を貸し切っての、立食パーティ。


　部員の他、OBやOGそして関係者が多数顔を出していた。


　OBと談笑している佑典を待っている間、壁際で一人飲み物を手にしていたところ、内村さんに呼び止められた。


　依然として佑典に想いを寄せていて、海外赴任を決意したことは面白く思っていない。


　佑典をこんな決意に追い込んだのは私のせいだと、ますます嫌悪感を募らせているという。
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