誘惑~初めての男は彼氏の父~
 「佑典・・・」


 「だめだよ・・・」


 赤信号の間だけかと思ったら、そのまま私は腕の中に閉じ込められていた。


 ・・・その「禁止令」の真意が分からない。


 ただの一般論なのか、それとも遠回しに和仁さんとのことを暗示しているのか。


 恐ろしくて訊けない。


 「佑典。どうしても他でぬくもりを求めちゃ・・・だめ?」


 様子を伺うように、私は佑典を見上げた。


 「当たり前だろ。だから指輪を送ったんだ。理恵は俺のものだって証」


 佑典は私の左手の薬指に触れた。


 和仁さんと函館に出かけた時だけは外していた指輪。


 「カイロのぬくもりもダメ?」


 「・・・人間以外ならいいけど。湯たんぽとか。もしくはペットとか」


 そこでその話を終えて、そっと唇を重ねた。


 夜空は真冬の煌びやかな星座から、春の若干落ち着いた星空へと変わりつつあった。
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