誘惑~初めての男は彼氏の父~
 ・・・。


 佑典の腕の中で夜を過ごす機会は、あとわずかしかない。


 そんなことを考えながら、真夜中の静けさの中、時を感じていた。


 「・・・眠れない?」


 時刻を確認しようと体を動かしたことで、佑典を起こしてしまった。


 「もう、今まで習慣だったことができなくなると思うと、ちょっと寂しくて」


 それは偽りのない本音。


 例えばこの、ホテルの一室。


 自宅が遠方の佑典は、大学近郊やススキノで飲み会があった際、遅くなる日は無理して帰宅せず。


 札幌市内で宿泊することが多かった。


 友人の家のこともあるし、格安のカプセルホテルだったり。


 そして私と一緒の時は、大学から徒歩圏内のこのビジネスホテルなどを利用していた。


 札幌駅からもそう遠くないため、観光客や出張中のビジネスマンなどがよく利用するのだけど。


 よっぽどのことがない限りは空室があり、平日の夜は格安なので、よく泊まったものだった。


 「寂しいなんて言わないで。理恵にそんなこと言われると、決意が揺らいじゃうから」


 ぎゅっと抱きしめられた。
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