誘惑~初めての男は彼氏の父~
 「こうしていられるのは、今夜が最後かもしれないのね」


 佑典の腕の中は、私の指定席。


 居心地がよくて、いつも甘えていた。


 当たり前だった居場所が、これからは遠く隔てられてしまう。


 「出発前はゆっくりしたかったんだけどね」


 卒業関係のお祝いイベントが出国まで相次いで、これから数日佑典は多忙。


 明日はオーケストラ部の、卒業祝い行事。


 卒業に伴って地元を離れる卒業生とのお別れ会。


 海外に渡る佑典が、ほぼ主役。


 首席の地位を守っていたほどの奏者がはるか異国へ旅立ってしまうことは、オーケストラ部にとっても痛手だった。


 OBとして今後も部に出入りを続けて、後進の指導にもあたってほしかっただろうから。


 一番残念に思っているのは、内村さん。


 時間をかけて佑典の私への想いを薄れさせ、あわよくば・・・と期待していたようだから。


 内村さんが佑典と会えるのは、おそらく明日がラストチャンス。


 大学が違うので、元々会う機会はそう多くはない。


 そして明日を最後に、佑典は手の届かない場所へ行ってしまう。


 ラストチャンスを生かそうと・・・一発逆転を狙って、何か仕掛けてくる危険性もある。
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