誘惑~初めての男は彼氏の父~
 自分が許されないことをしているからか、他人が何か企んでいることに対しては非常に敏感になっている・・・。


 きっと明日内村さんは、勝負を賭けてくるはず。


 「理恵・・・?」


 無意識のうちに険しい表情になっていた私に、スタンドの薄明かりの中佑典は気づいた。


 「一年だけだから」


 再び強く抱きしめる。


 「俺は新しい仕事に、理恵は卒業研究に集中できるよう、きっとこれは神様が与えてくれた時間だ」


 「試練?」


 「そうかもしれない。でも今は、お互い自分のことに集中しなきゃならない時期だから。一年間は我慢しよう」


 「一年間・・・」


 「もしもそばにいたら、毎日会いたくてたまらなくなって歯止めが利かなくなるから。今はきっとこれが最善なんだ」


 自らに言い聞かせるようにして、佑典は私の首筋にキスをした。


 ・・・それからの愛の行為の間。


 私は頭の片隅で、和仁さんのことを考えた。


 佑典の目が届かなければ、私と和仁さんとの間の傷害がなくなることに、佑典は気づいていないのだろうか。


 自分が離れることによって、私と和仁さんを繋ぐものも消滅すると思い込んでいるのだろうか。


 分からない・・・。


 もうあとわずかしか会う機会はないことを思い出し、抱かれながら余計なことを考えるのはやめようと努めた。


 そのまま夜は更けていった。
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