誘惑~初めての男は彼氏の父~
 「まだ出発まで時間がある。それまで何回か会えるよ」


 今夜はオーケストラ部の飲み会で会えないけれど、それ以降はもう少し会う機会はあった。


 今日が最後ではないにもかかわらず、この胸の押しつぶされそうな不安はいったい・・・?


 「ごめん。本当は出発までずっと理恵と一緒にいたいんだけど」


 まだ人通りの少ない、土曜日の早朝。


 朝日を浴びながら、そっと佑典は私を包み込んだ。


 「私こそ・・・ごめんなさい。オーケストラ部に佑典はずっとお世話になったんだから。最後の挨拶をきちんとしてこないとね」


 別れの挨拶。


 内村さんに対しても・・・。


 私の不安の原因は、そこにあるのだろうかと考えた。


 「今日が最後じゃないし。明日とか・・・また会おうね」


 「私も何とか、時間を作るから」


 物事を悪いほうに考えすぎのような気がして、私は不安を打ち消して佑典を見つめた。


 今まで体験したことのない期間、これから離れ離れになることとなる。


 それゆえ出発を目前に控えた今になって、私までもが目に見えない不安に包まれているのだと思った。
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