誘惑~初めての男は彼氏の父~
 「あ!」


 「どうした、理恵」


 自宅手前の地下鉄駅に近づいた時。


 「そういえば駐輪場に自転車置きっぱなしだった・・・。回収して帰るから、ここで降ろしていただこうかしら」


 「遅いし家まで送るよ。自転車は明日でいいだろ?」


 「だめ、夜が一番危険なの。しかも今日はうっかりして、チェーンロック二重にしてないし」


 「そっか・・・。気をつけるんだぞ」


 自転車の件は、とっさに出た嘘。


 和仁さんに住んでいる場所を知られたくなくて、寮のはるか手前で車から降りた。


 「それじゃ寺本さん、気をつけて帰ってね。また遊びにおいで」


 「今日は本当に、ありがとうございました」


 目を合わせないようにしながら、和仁さんに深々と御礼をした。


 「おやすみ、理恵。また連絡するから」


 そして外車は、夜の闇に消えていった。


 テールランプの赤い灯りが完全に見えなくなったのを確認して、私は駆け足で寮へと戻った。
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