誘惑~初めての男は彼氏の父~
 「今日もありがとう」


 佑典はいつもデートの帰り道、私の寮の前まで送ってくれる。


 門限には決して遅れないように気を配りつつ。


 いつの時も私のことを第一に考えてくれる、優しい彼氏。


 なのに・・・。


 「じゃ、また明日」


 「おやすみなさい」


 手を振って帰っていく佑典。


 私の初めての彼氏。


 付き合ってもうすぐ四ヶ月。


 デートの際に手を繋ぐ段階。


 そんな私たちは、友人たちに「ほのぼのカップル」と称されている。


 一目を憚らずに抱き合ったりキスをしたり・・・なんてあり得ない。


 すると帰り際。


 「理恵、待って」


 呼び止められ振り向くと、佑典がそっと近づいてきた。


 そして唇がそっと触れた。


 これが私たちのファーストキス。


 わたあめのようにふわっとしていて、甘いものだった。


 彼氏との初めてのキスはドラマティックなものなどではなく、日常の延長線上の出来事だった。
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