誘惑~初めての男は彼氏の父~
 キスの後、佑典は私の寮の前から歩き去って行った。


 これからJRに乗り、札幌近郊にある自宅まで帰っていく。


 まだまだ最終列車には間に合うはず。


 ・・・出会ったのは去年の秋。


 大学一年の「教養課程」の最中、二年次からの「専門課程」をどう選択するか最終決定をする直前。


 はじめて希望学科の研究室に見学に出向いた時、佑典はいた。


 佑典は一年先輩。


 私は希望通りの専攻に進むことができて、佑典の後輩となった。


 春休みのうちからガイダンスなどで顔を合わせ、徐々に喋ったりすることが多くなり。


 新学期直後には移行学生の歓迎会など飲み会が頻繁に行なわれ、自然と交流が増えていった。


 そして新学期から少し経った四月末に、交際を申し込まれた。


 それから数ヶ月。


 こうしてのんびり交際を続けている。


 優しくてかっこいい彼氏。


 友人にも恵まれ、希望の分野を学ぶことができて、キャンパスライフも充実している。


 何もかも恵まれているはずなのに。


 時折胸を去来するのは、三年前の秋の終わりの出来事。


 私の初めての男・・・。
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