誘惑~初めての男は彼氏の父~
 「そういう君も、僕と逢ってる時、偽り続けていたようだけど」


 「えっ、何をでしょうか」


 「君の名字。あの時と今は違うよね。だから佑典に彼女の話をされても、それが君だとは気づかなかった」


 「嘘じゃありません。私・・・」


 思えばあの頃は、まだ亡き父親の姓を名乗っていた。


 母親の姓に戻したのは、大学進学を機にしてのこと。


 名字が違うのと、下の名前「理恵」はありふれた名前なので、佑典からちらっと聞いた私の名前がかつて関係を持った相手と同一人物だとは気づかなかったようだ。


 加えて佑典は以前から写真に撮られるのが好きではなく、私と一緒に写った写真ももしかしたら存在しないかも。


 (写真嫌いは、今考えると父親に対するコンプレックスの表れかも)


 そんなわけで和仁さんは、あの日ばったり遭遇するまで、私が息子の彼女だとは予想だにしていなかったと語る。


 「なるほど。そういう事情が」


 一呼吸置いて和仁さんは、こう告げた。


 「今さら昔のことや、これまでのことをあれこれ追求し合っても何も始まらないね。問題はこれからのことだ」
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