誘惑~初めての男は彼氏の父~
 「る、留守の間、お父さんはどうしてるの」


 沈黙が怖くて、つい和仁さんの話題を出してしまった。


 「父さん? ・・・俺がいない日はあの人外食だよ。自分で料理なんかしないから。仕事で遅くなるって言ってたし、家には寝るためだけに帰ってくるだけじゃない?」


 「そうなの・・・」


 私と会う約束も、「仕事」ということになっているのだろうか。


 「どうして理恵が、父さんの心配なんてするの?」


 唐突に和仁さんの話題を出したから、佑典はいぶかしがる。


 「別に・・・。父一人・子一人だから、留守中どんな感じなのかなって。食事とかどうしてるのかなと思って」


 当たり障りのない回答をした。


 「あんな父さんの心配してくれるなんて。・・・理恵は優しいね」


 お人よしな佑典は、いいほうに勘違いしている。


 これまた私を心苦しくさせる。


 心配してるわけじゃないのに。


 「・・・お父さん、佑典のお母さんと死別なさってもう十年近くになるんだよね。再婚なさるとかそういう話はないの?」


 「え?」


 私のその場しのぎの一言で、佑典の表情が翳った。


 しまった、失言だったか。
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