誘惑~初めての男は彼氏の父~
 「それにしても今回は、運命っていうものをつくづく感じたよ。まさかこんな再会というものがあるなんてね・・・」


 食事を終え、食後のデザートを食べていた際、和仁さんが不意にそんなことを口走った。


 店内は冷房が効いているけれど、食事をしているうちにやはり暑くなったのか、夏物スーツの上着を脱ぎながら。


 「本気で会いたいと願った気持ちが、神様に通じたのかな」


 「・・・和仁さんは、誰か好きな人いらっしゃらないんですか」


 「えっ」


 話題を逸らしたくて、突然矛先を変えた。


 「・・・いるよ。三年前、出張中に行きつけのコンビニのレジで見た、可愛い子」


 「冗談はやめてください」


 「本当の話だよ。遠い昔にクラスの子に、想いを募らせるだけで打ち明けられなかった初恋の頃を思い出しながら、君の元に毎日通っていたんだよ」


 「・・・」


 「だから君が雨の夜、自動販売機の前で雨宿りしているのを見つけたのはラッキーだった。それをきっかけに声をかけて、束の間とはいえ恋人のような日々を過ごすことができたのだから」
< 77 / 433 >

この作品をシェア

pagetop