誘惑~初めての男は彼氏の父~
 ・・・あの頃のことを思い返すのは、正直苦しい。


 身も心もこの人に溺れていた過去を、思い知らされてしまうから。


 「ま、それだけだね。それ以外は息子の世話と写真の毎日で、最近はすっかり恋ともご無沙汰しているよ」


 「・・・そろそろ新しい恋を、始めてみようという気持ちにはならないんですか」


 私に矛先が向いてくるのを避けるために、新しい恋を勧めてみた。


 「だったら・・・。もう一度僕と始めてみようって、申し込んでもいい?」


 「和仁さん・・・」


 冗談ではなく、その言葉は本気だ・・・。


 「私にはもう佑典がいます。無理です。この話はこれっきりにしてください」


 「・・・佑典と別れてほしいって頼むのは、無理なお願いかな。僕が言ってもいいけど。それともこっそり楽しむ?」


 この人は私が、本当は身も心も溺れた過去を断ち切れていないのを直感しているらしい。


 「もう一度、あの頃のように・・・」


 私の心を揺さぶろうとしている様子。
< 78 / 433 >

この作品をシェア

pagetop