誘惑~初めての男は彼氏の父~
 目の前には、私を包み込むような優しい微笑み。


 和仁さんのことを嫌いになって連絡を絶ったわけではなかったので、私の心は揺れてしまう。


 でも今さら、佑典を裏切りたくない。


 かといって佑典との愛を貫けば、生涯和仁さんとは「義父」して接していかなければならない。


 気まずい思いを抱えたまま。


 過去を全て忘れることなんてできない・・・。


 私、どうすればいいのだろう。


 「こんなことになるならば、いっそのこと出会わなければよかったのでしょうか・・・」


 突然悲しみが私の胸を吹き荒れた。


 「理恵ちゃん?」


 和仁さんも驚いていた。


 急に私の目には、涙が溢れ出たのだから・・・。


 この私が泣くなんて。


 どんなに怖い映画を観ても、悲しい別れがあっても泣いたことがなかったのに。


 今日に限っては、涙を止めることができなかった。


 泣き落としで男から同情を引き寄せる女なんか最低だって、常日頃友人たちに力説していたのに・・・。
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