誘惑~初めての男は彼氏の父~
 「だから、そのために場所を変えようって提案だよ。もうここじゃ込み入った話は無理だろ?」


 「確かに」


 すでに私たちは、店内の注目の的と化している。


 他のお客さんたちや店員さんは、こっちをちらちら見て様子を窺ったり、くすくす笑っていたり。


 私が泣き出したおかげで、周囲に変に思われてしまった。


 私は名もない学生だけど、和仁さんはある程度名の知れた写真家。


 メディアへの露出は最小限にしているとはいえ、顔を知っている人はゼロではない。


 誰か顔見知りに目撃され、笑いものになるようなことがあっては大変。


 いや、笑いものになるだけで済めば、まだましかも・・・。


 とりあえずこの店を出ることだけは同意した。


 念のため自分が食べた分だけでも負担しようとは思ったのだけど、和仁さんは当然のようにご馳走してくれた。


 会計を済ますのを待って、先導されつつ駐車場へと向かった。
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