誘惑~初めての男は彼氏の父~
 「日常?」


 「はい。今まで楽しく暮らしてきた佑典くんと和仁さんの日常が、私のことが原因で壊れてしまうのは悲しいです」


 「・・・佑典は母親のことがあってから、僕に対して壁を作って接していたし、いずれは親離れをして独立していく。それがちょっと早くなっただけだと思えば」


 「でも!」


 また感情が高ぶったのか、涙が出てきた。


 今日一日で、今まで生きてきた分の涙と同じくらいの涙を流したような気がする。


 「ごめん。君を苦しめるつもりはなかった」


 そう謝った直後、急に車のアクセルを強く踏んだようだ。


 急激に加速する。


 「あの・・・」


 車はちょうど札幌市を出て、複数の川が集まる地点に架かる橋を越えていった。


 北側に隣接する石狩市に突入したようだ。


 「どこまで行くんですか」


 どんどん札幌都心部から離れていく車に、私は心配になってきた。


 「涙を忘れるには、海を眺めに行くのが一番だと思わない?」


 「海? これからですか?」


 まだ西の空はうっすらと明るいけど、とっくに日は沈んでいるというのに・・・。
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