誘惑~初めての男は彼氏の父~
 「海を眺めていると、悲しいことなんて忘れられるよ」


 「でもこんな時間に行っても。もう真っ暗じゃないですか」


 「この月明かりなら大丈夫」


 空には満月間近の、レモン色の月が浮かんでいる。


 気温が高いので夜空が少し霞んでいて、月の明かりがぼやけている。


 「じゃ、行こうか」


 結局私の同意を待たずして、和仁さんは車を発進させてしまった。


 私も何となく海を見たい気がしたので、特に反対はしなかった。


 まるで駐車場の出口通路のように急な道を辿り、別の国道に移った。


 そこからしばらく静かな国道を直進した後、車は分かれ道を物寂しい方向へと進んでいった。


 ここは海水浴場へ向かう道だ。


 昼間は賑わうけど、夜は・・・。


 ますます不安になってきたのだけど、やがて前方にコンビニの眩しい光が見えてきた。


 「何か飲み物買う?」


 駐車場に車を入れ、和仁さんが私に尋ねる。


 「いえ、お構いなく」


 和仁さんはシートベルトを外し、車から降りてコンビニに向かおうとした。


 まさか・・・私にも無理やり買ってきて、その中に隙を見て睡眠薬とか入れて、とか企んでいないだろうか。
< 89 / 433 >

この作品をシェア

pagetop